ワンポイントアドバイス

第5回ネット小説大賞最終選考総評

 2017年、『ネット小説大賞』も5回目の最終総評を発表するタイミングがやってまいりました。
5回目の開催ということで、「小説家になろう」でもすっかり定着した感があり、毎回多くの意欲的な作品にご応募いただいております。今回は、国内最大級の応募作となる7165作品のご応募をいただきました。
Web掲載から書籍化をした作品が身近にみられるようになった昨今、作品も『お手本』を参考にした形か、回を増すごとに品質が向上していると感じられました。

ジャンル

 第5回のコンテストでは、チート・異世界・悪役令嬢など、いわゆる「なろうの王道」がますます成熟する一方、
オリジナル性の高いマイナージャンル作品が目を引く回となりました。
第4回までに引き続き異世界転生作品も多く見られましたが、第4回にて例えば筏田かつらさんの『君に恋をするなんて、ありえないはずだった』のような、『小説家になろう』の多数ジャンルではない分野からも選出されたことが皆様の目にとまったのか、他ジャンルも割合として多くなってきた印象を強く受けました。
読み手、書き手ともにこれまでとは違う全く新しい作品が読みたい、書きたいというエネルギーを感じることができました。

 今回、グランプリがヒロロさんの『妻を殺してもバレない確率』となり驚かれた方もいらっしゃると思いますが、同作品はまさに今回のコンテストの特徴そのままに、まったく新しい分野で審査員に衝撃を残していただけた作品であると考えています。思わずクリックしてしまう秀逸なタイトルに加え、独自の世界観を非常に上手く利用して二転三転するストーリーを構築されていました。実際に閲覧することで、タイトルで持った興味が驚きと、感動に変わっていく題材です。
同タイトルはシリーズであり短編三部作セットとなっておりますので、ぜひ『妻を殺してもバレない確率』『彼を陥落させるゲーム』『桜色の二律背反』の順番でお読みくださいませ。この総評を書くために再読しましたが、それでも泣けてくるほどの作品です。
 
 村崎千尋先生の『ブラックホールをふさいだ日、』はとても瑞々しい青春小説でした。設定こそ奇抜なものではありませんが、その分繊細な心情表現と日常の描写を丁寧に積み重ねており、心に残る物語でした。
また、珈琲の豊かな知識とヨーロピアンな世界観、登場人物の心の交流が調和したくろひつじ先生の『深煎りの魔女とカフェ・アルトの客人たち』、お稲荷さまの無邪気な少女と大学生のほのぼのとした日常を描いた矢代将門先生の『おきつねさまと食べ歩き』など、
キャラクター文芸を意識された作品も生まれており、層の広がりを感じました。
 
このように、売れ筋やブームに囚われず、好きなテーマをのびのびと書いている作品にキラリと光るものがありました。
 今回特筆すべきは、(「なろう」での)マイナージャンル作品の黎明があります、歴史、現代青春、ミステリー、ホラー、SF。投稿数は少ないながらも優れた作品が多く、選考する側としても非常に楽しく拝読できました。

発想・アイディア

 最初に「小説家になろう」での主流ジャンル以外の作品について触れましたが、『主流』というのはニーズがあるからこそ発生する流れであり、今回もユーザーのニーズをつかんだ作品が多数選出されました。
 今回金賞となった紅月シン先生の『元最強の剣士は、異世界魔法に憧れる』は、物語としての王道を突き進んでいる作品であり、とにかく主人公がどこか親しみを持てながらも格好良く、やきもきさせながらも話の展開が頂点になったところで動く姿に大いにひきつけられました。その手法そのものは特別ではなく、既視感のあるものですが、話の引き・展開・キャラクターの口調や敵の憎たらしさなど、物語の構成に必要な多くの分野においてとにかく品質が高く、審査過程でも非常に高い評価を集めました。
 ヒラガナ先生の『『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル』は「小説家になろう」というよりはライトノベルのお約束を破った作品であるといえます。女性が圧倒的多数の世界という、テンプレートに近い世界観ですが、頭のネジが飛んでいる女性キャラクターばかりの中、なんだかんだと前向きにアイドルを目指していく、魔法もスキルもない主人公を気づいたら応援していました。
 サザンテラス先生の『クラスが異世界召喚された中俺だけ残ったんですが』も、王道の流れである「異世界に転移する」といった行動を『自分以外のクラスメイトが転移する』といった形に置き換えてしまい、序盤の興味をひきつけながら、転移したクラスメイトの話と現実世界に残った主人公の話をそれぞれ楽しめるという方法で、我々を驚かせてくれました。
また、もうひとつ特筆すべき作品として、小説家になろうでは主流ジャンルであるものの、これまでネット小説大賞では受賞の少なかった『悪役令嬢』ものとして、真弓りの先生の『シナリオ通りに退場したのに、今さら何の御用ですか?』が選ばれました。単純に文章力の高さだけではなく、いわゆる王道の展開である立場と能力を使ってのしあがっていく展開ではなく、主人公が自らを省みて成長していく展開に、これまでにない新鮮さとジャンルの可能性を感じ取ることができました。
 一方で、既存の物語との差別化を図る為に取り入れた設定が結果的に意味を為していないなども多く見られました。結果的にタイトルや設定が途中で意味をなさなくなりつつも人気を博す名作も確かに存在していますが、そういった作品はキャラクター性であったり、共感性であったりといった部分がその点を補って余りあるほど魅力的であるから成立している部分もあり、決して設定が意味をなしていないから魅力が増しているわけではありません。場当たり的な設定を考えるだけでは共感を得る事は難しいということ、あくまで小説に必要なのは物語性であることを再認識しました。
頭一つ抜けた作品に共通することは、テンポの良さ、言葉選びのセンスの良さであり、書き手自身のオリジナリティが選考の決め手となったように感じられます。

キャラクター性

 既存作品との差別化の必要は昨年から言われていることではありますが、昨年度では差別化の手法として「異世界での目的/個性的なチート能力」が多く見られたのに対し、今年は「キャラクター性」が台頭したように感じます。
 裂田先生の『俺んちに来た女騎士がいつの間にか嫁認定されてる件』は、日本で農家を営む男性の下に突然「女騎士」が転移してきて、二人で田舎暮らしをする、という作品です。生真面目な騎士と、飄々とした独身農家という組み合わせの妙が面白く、生き生きとした掛け合いに、クリスと莞爾という人間を応援したくなってきます。
 また、青山有先生の『国境線の魔術師 ~休暇願を出したら、激務の職場へ飛ばされた~』は、「国境線の魔術師」というタイトルのかっこよさもさることながら、苦労人な主人公が周りの人間のせいで戦いに巻き込まれていく過程に説得力がありました。
 テーマや舞台設定が似ていても、登場人物の性格や目的の組み合わせ方を変えることで、新しいストーリーが生まれており、先の展開が読めずにわくわくしながらページを追っていました。
 鷹樹烏介先生の『退魔の盾』も、主人公が連続殺人鬼という時点で驚きですが、その主人公思考が主人公の性格そのままに客観的に述べられており、ハードボイルドをにおわせる展開とあわせて、流行線から大きく外れた、しかしやみつきになる面白さをみせてくれました。

構成・読者層など

 商業デビューを前提としたコンテストである以上、読者に対して新しい印象を、離脱させることなく提供することは必要不可欠といえます。基本的な文章力や、そもそも読者に読んでもらうつもりで文章や構成を作っているのかという点については過去の総評でもふれましたので割愛いたしますが、最終選考上では作品が面白く、読んだら興味を惹かれることは前提として、『実際に書店でどのユーザーが手にとり、お金を持ってレジまでもっていってもらえるかがイメージできるか』がやはり重要になってきます。
 すでに発売して好評をいただいておりますが、夜州先生の『転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~』では、タイトルの通り自重を知らない神々が主人公にチート能力を与える展開であり、今回金賞を受賞したなんじゃもんじゃ先生の『チートあるけどまったり暮らしたい 《転生人生を楽しもう!》』は、そのタイトルの通り、主人公がチート能力を受けてまったりしたいと望みつつも異世界で生活をおくっていく話ですが、双方にいえる点として、物語の展開が非常に素早く、読者を飽きさせないことがあります。
 序盤の展開についてはもちろん、つかんだユーザーをいかに離さないかといったことは著者の文章力・構成力の出番であり、今回の受賞作は上記二作品を含めてその能力が高かったと考えています。
 また、ユーザーを絞ってしまう方法も作品の魅力を高める手法であると考えております。木野裕喜先生作の『サキュバスに転生したのでミルクをしぼります。』はその点が非常にわかりやすく、TSの王道、外角低めに全速力で剛速球を投げている印象を受ける作品でした。

面白さ

 前述した項目をすべてあわせてになりますし、これまでも何回か記載したのですが、小説のコンテストは商業である以上『つまらなくないか』よりも『面白いか』の方が重要になってきます。もちろん面白さを伝えるために最低限の技量は必要なのですが、伝わりにくいところは編集・校正・校閲で修正することはできますが、面白さを新しく編集者が追加することはなかなか難しくあります。
今回金賞を受賞した神埼 黒音先生の『魔王様、リトライ』のように、流行ジャンルを抑えながら、文章・構成・キャラクター性などすべての面においてハイレベルな作品は当然受賞していきますが、ボーダー上の作品、意欲作と称されるものは仮に売れ筋のジャンルではなくても、『流行の壁』をうち破ってくれるだけのパワーを感じさせてくれます。
 総評という立場でこういったことを記載するのはとても申し訳ないのですが、それは著者の方が作品に込めて発するエネルギーであり、理屈で『こうあるべき』とアドバイスできるものではないのでしょう。
 黒椋鳥先生の『名前のない怪物』は、ホラー・ミステリー系統の作品であり、小説家になろう上ではメジャージャンルではありませんが、強烈な読み応えで審査員に注目され、スポットライトを強く当てれば大きく評価される可能性を見せてくれましたため、今回メディア賞が急きょ復活する形で受賞となりました。
 こうした面白さは、『自分が小説を読んでいてこうあってほしい』というところを明示できるかどうかということにもつながります。まったく小説や書籍・文字を読まない方が急に文章を書いて大ヒットということはないとは言いませんが、極めて難しいでしょう。
 ネット小説大賞は書く方のためのコンテストである一方、読む方のためのコンテストでもあれればと考えております。
『面白さ』が理屈ではない以上、そこに導かれるのは『才能』などという無責任な2文字ではなく、著者の方の創作物の吸収と、それに伴う再構築であってほしいと考えております。
 よく読み、よく書くという当然の小説文化をたすける一助に当コンテストがなれればと願っております。

最後に

 締めとなりますが、今回受賞した28タイトル、28名の著者の方、重ねておめでとうございます。受賞作は既に一部が発売されておりますが、この夏から順次発売いたします。
 運営チーム一同、当コンテストから出た作品、およびコンテストにエントリーされた方々の作品が、ひとりでも多くの方の目に留まり、その発信する文化に気づいていただけますよう、継続的にご協力させていただきます。

 振り返ってみますと、小説家になろうの成熟とあわせまして、応募作を見ても作品の完成度自体も高く、意欲作も散見されるので、バランスのよいコンテストになっていると思いました。総評においてすべての作品が紹介しきれなかった点はございますが、今回の受賞作はいずれも各出版社様講評に書かれております通り質が高く、我々選考する側も頭を悩めさせていただきました。

 また、こちらは最終選考でも申し上げたことですが、恐らく何の気休めにもならないとおもいますが「ネット小説大賞」は協賛社も6社と多く、すべての出版社様が個性を持たれているため、網の目にかかる可能性が高いコンテストではございますが、今回は99.6%の方が落選されています。その中には我々が見落としている、優れた作品もあると考えています。
 受賞した作品が優れていることは事実ですが、落選した作品が見るべき部分がないかというと、我々はけっしてそう考えません。
 書き続ける限りにおいて機会はめぐってくるものです。『小説を読む』ことと同様に、『小説を書く』ことが楽しい行為であり続けてほしいと考えております。その才能をぜひ新しい文字に起こしてくださいませ。
 今回はこれまでの主流ジャンルを突き詰めた王道作品はもちろん、新しいジャンルで未来を感じさせてくれた作品も多く選ばれました。どちらに限らず、書き手がジャンルを作り出していく「小説家になろう」というコンテンツの面白さを再確認すると同時に、ネット小説大賞の新局面を見た第5回となりました。
 また皆様とお会いできることを願い、コンテストの締めとさせていただきます。

●ネット小説大賞 運営スタッフより

 皆様お世話になっております。「ネット小説大賞」運営チームスタッフです。
2016年10月より開催しておりました当コンテストにご参加いただきまして、まことにありがとうございました。
 皆様のご応援もあり、応募作品7165作品、受賞作品28作品と『日本最大のコンテスト』であり続けることができました。

 そして皆様、お疲れ様でございます。
 受賞する・しない、応募する・しない、作者・読者に関わらず、コンテストはいささかならずエネルギーを使うものだと思っています。

 皆様も選考が進むたびにエネルギーを消費されていることと思いますが、それは我々審査する側も同じでして、多くの優れた作品を目の当たりにし、どの作品を次のステップに進めるのか、日々思い悩んでおります。
 総評でも少々触れましたが、私個人といたしましては、小説は書くこと・読むことそれぞれが娯楽の一つであると考えております。娯楽作品であるときに重要なことは『いかに優れているか』であり、『優れていない箇所がいかに少ないか』ではありません。
 もちろん『優れていない点』が『優れている点』を覆い隠すようではいけないのですが、こうして作者と読者の距離が近くなってきた現代だからこそ、作品のいいところを存分に語れるような時代がくればいいと考えておりますし、コンテストとしてもその一助になれればと考えております。

読者について

 商業物として小説を出す以上、読者の存在は切り離せないものになります。
そして『ネット小説大賞』が『小説家になろう』とのコラボコンテストである以上、小説家になろうの読者に対していかに作品を届けるのかということは、とても重要なことになってくるでしょう。
 『ありきたりなジャンル』と、揶揄されることも多い王道ジャンルではありますが、それを望んでいるユーザーが多くいる以上、そのジャンルは『ライバルがたくさんいる』ことはあっても、『読者がいない』ジャンルではありません。読者にこれまでと違った切り口で作品を届けることができれば、大きく拡大していくでしょう。
 逆に申し上げますと、『なかなか読者がつかない』と悩まれている方は、そういった王道路線にあえて挑戦してみてもいいと思います。『読者のために作品を書いている』のであり、『作者であるあなたが楽しめている』のであれば、その作品は間違いなく素晴らしい作品になるでしょう。

 『序盤の面白さ』といったことに選考基準として何度となく触れてきましたが、Web小説というジャンルではその点は非常に重要であると考えており、我々審査する側はともかくとしまして、一般のユーザーの方は気が向けばすぐに他の作品を読める状態にあり、本屋であっても、隣を見れば魅力的な本がおいてあるといった状態で、『●話まで読んでほしい』というのは、作者にとっては当然の願いでも、ユーザーの方にとってみればそれはなかなか難しいことかもしれません。
 そういった技術論と同時に、『●話』まで進んだときに開けている光景が、従来の作品になかったほどに素晴らしいものであれば、序盤少々苦しくても、そこまでたどり着いた方がきっと素晴らしさを広めてくれるでしょう。

コンテストについて

 今回28タイトルが受賞いたしました。前回よりは少ないですが、ひとつのコンテストからとしてはとても多い数です。
 恋愛・ホラーなど一般文芸ジャンルが多く選ばれ、文字数が少ない作品でも受賞しました。
といったことは、コンテストとしては大変うれしいことでありますが、同時に今回、99.6%の方はジャンルを問わず、落選されたことになります。
 毎回申し上げていることではありますが、コンテストに受賞した作品は間違いなく素晴らしい作品ですが、ネット小説大賞に落選した作品がすべからく価値がないか問われますと、『そんなことは絶対にない』と返答いたします。
 当コンテストは、皆様に小説を書き続けていただくきっかけを持っていただくことをひとつの目的として開催しております。受賞を逃したうえで未だに続刊している作品もあれば、一度落選をしても何度目かの挑戦で受賞をした作品もございます。
 商業物である以上、常に向上心は持ち続ける必要はありますが、自分の作品の価値、自分の執筆力を認めるといった点も同時に必要なことです。
 『書き続ければチャンスがある』という言葉は気休めではございますが、同時に事実でもあります。
当落関係なく、皆様にとってこのコンテストが小説にふれるきっかけであることができればと考えております。

最後に

 重ねてのご連絡となりますが、皆様、第五回ネット小説大賞に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 もちろん書籍はこれから発売されてまいりますし、我々としても継続して一人でも多くの方の手に取っていただけるよう尽力させていただきますが、コンテストとしての第五回ネット小説大賞は、これをもちまして完了となります。
 また、当コンテストではお約束はできないものの、ひとつでも多くの作品が世の中におくりだせるよう、今回も努力させていただきます。

 『小説』という文化が、ひとりでも多くの方に浸透していくよう、願っております。

 今回は、ご参加まことにありがとうございました。引き続き何卒よろしくお願いいたします。

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