(C)香練 (C)羽公/ツギクル
第10回ネット小説大賞において『悪役令嬢エリザベスの幸せ』で受賞となった香練先生に独占インタビューを敢行!
前半では『受賞作の見どころ』を、後半では『小説を書くときのコツ』などを伺いました!
ぜひ最後まで読んでみてください♪
殿下!10分間、お時間をいただけますか?
第12回ネット小説大賞受賞作!
婚約者の王太子から、“真実の愛”のお相手・男爵令嬢へのイジメ行為を追及され――
始まりはよくあるテンプレ。
特別バージョンの王妃教育で鍛えられ、悪役を演じさせられていたエリザベスは、故国から“移動”した隣国の新天地で、極力自由に恋愛抜きで生きていこうと決意する。
ところが、偶然の出会いを繰り返す相手が現れ――
幸せな領地生活を送りたいエリザベスは、いろいろ巻き込まれ、時には突っ込みつつも、前を向き一歩一歩進んでいく。最終目標、『社交界の“珍獣”化』は、いつ達成されるのか。
Amazon『悪役令嬢エリザベスの幸せ』
――――受賞おめでとうございます! 本作は短編版『悪役令嬢の10分29秒』からスタートしていますが、短編だけでなく連載版も400万PVを超える人気作となりましたね。もともと連載版を出すことを想定していましたか?
ありがとうございます! 連載版を書くことは、当初はまったく想定していませんでした。
『小説家になろう』での投稿をしばらくお休みしていて、リハビリのつもりで短編を書いたこともあり、主人公の未来は読者の皆様のご想像にお任せしようと考えていました。
――――もともと短編を読まれていた方が、長編も読んでくださったのでしょうか?
そうですね、短編を投稿してから連載版をスタートしたのが早かったこともあり、続けて読んでくださった方が多かったように思います。
振り返ると、短編を投稿してから連載版をスタートするまでは1週間も空いていませんでした。「主人公が幸せになってほしい」「続きが気になる」と感想をいただけたこともあり、背中を押していただきました。
集中して取り組むタイプなので、連載版を書くと決めたあとは早かったですね。
―――短編版の『悪役令嬢の10分29秒』というタイトル、「この短時間で何が起こるのか」とワクワクして素敵です。この話の着想を教えてください。
悪役令嬢を弾劾するという王道シーンではあるものの、他作品と差別化するために、時間が限られるプレゼンのような要素を入れました。実際に10分ほどで読める字数にしています。
また「私はいい女だったのよ」と男性に理解させ、しっかり後悔させたあと女性から振る展開は、現代恋愛ストーリーでもよくある手法なので取り入れてみました。
――――受賞作『悪役令嬢エリザベスの幸せ』が発売されますが、書籍でしか読めないエピソードはありますか?
書籍版では『悪役令嬢の控え室』というタイトルの外伝があります。
ここからはネタバレとなるので『小説家になろう』を読んでいただいている読者様向けのお話ですが、主人公エリザベス(以下:エリー[愛称])はルイスに求婚されたときに、父・ラッセル公爵に手紙を送ります。
この外伝は、ラッセル公爵が妻・アンジェラとの思い出を述懐し、手紙を受け取った公爵がどのように二人の結婚を了承したか描いたエピソードです。
他にもルイス視点の裏話的な外伝『タッジー・マッジー攻防戦』、エリーの幼いころを描いた期間限定SS『私だけの秘密』という作品があるので、ぜひお手に取って読んでいただけたら幸いです。
――――このラッセル公爵は影響力も大きく、物語を動かす重要なキーパーソンですよね! 書籍化といえば、イラストがつくのも醍醐味だと思いますが、ぜひ先生の感想を伺いたいです!
拙作を担当いただいた羽公先生には、本当にすばらしいエリーを描いていただいて感謝の気持ちでいっぱいです。私自身、絵を観るのは大好きなんですが、絵を描くことは本当にダメなので尊敬しています。
―――本作で、先生がお気に入りのキャラクターはいますか?
思い入れは全員にありますが……やはりエリーとルイスですね。
エリーの魅力は、父・ラッセル公爵が「麦のようだ」と語っているとおり、「踏まれても強く育っていく麦」のように、困難に悩みつつも前を向いていく強さを持っています。これは過酷な王妃教育の賜物ですね。
この主人公像は、短編の『悪役令嬢の10分29秒』で展開されるスピーチを話せる能力や内容設定から逆算し抽出していきました。
―――ルイスの魅力はいかがでしょうか?
ルイスも同じく、困難を乗り越えていく強さがあるところですね。不遇な生い立ちの中で、第三皇子としてそのまま生きる道を選択せず、自分の意志で騎士団に入り、大変な努力をし、功績を立て、自分で道を切り開いていきました。
二人とも特殊な環境で教育を受けていく中で強くなっていったところは共通していますが、決定的に違う点は、ルイスは肉親の愛情を注がれていないところですね。
エリーは近い境遇に共感し、ルイスは異なった境遇(肉親に愛されて育ったエリー)を護るべきものとして惹かれています。
―――読者が応援したくなるようなキャラクターにするために、工夫されていること、表現するうえで心掛けていることなどあれば教えてください。
読む人が共感できるように現実味をかなり残しています(苦手な先生や上司のような人物、困った状況など)。
また、地の文で内面を赤裸々に語らせています(特に主人公のエリー)。不敬ワードなど普通の令嬢は絶対に口にしないことなので、不満や喜びが分かり、すっきりする面もあると思います。またエリーは過酷な王妃教育で能力が非常に高い設定ですので、物事を解決する爽快感、そこに後日ある身分も加わり、偉そうな権威に対抗しやり込める点なども後押ししたくなるのでは、と感じます。
―――領地や立地関係など細かく設定されていますが、どのように世界観を構築していったのでしょうか。
すべて短編の主人公エリーの設定を詰めたり、展開させた結果です。
たとえば婚約解消後もそのまま王国にいては利用されるので、隣国に移動します。そこは王国が簡単に手出しできない規模の帝国としました。帝国での生活拠点をどうするか。帝国を亡き母の祖国とし、地縁血縁と父ラッセル公爵の隠していたカードで、領地を相続していたことにしました。領地はエリーが好むのんびり生活ができそうで、かつ領地運営できる設定です。
また、帝国で正式に領主となるには皇帝に謁見しなければならず、母の実家との交流もあるので、帝都との距離や立地関係を考えました。こんな感じで設定しています。
―――初登場時のルイスの印象を悪く描いたのはなぜでしょうか。
初登場時は本当に評判が悪かったです(笑)。感想にも『喉渇き男』や『こんな人と一緒にしないで』などありました(笑)。
ルイスの設定でこのとき大きいのが、南部の連合国との紛争の戦時ストレスです。全てがそれゆえの八つ当たり的な無礼な態度の初登場でした。またこれでエリーの印象に残り、後にはルイスの置かれた状況や過去などを知るきっかけにもなっています。ルイスもエリーとの出会いが“覚醒”するきっかけとなり、エリーを護りたい象徴と直感的に感じ成長するようにも描きました。
―――エリーが着用するドレスはそれぞれシーンに合わせて細かく描写されていますが、デザインなどはどのように決めていったのでしょうか。
これは正直悩みました。シンプルにし読者様の想像に任せるか、描写をするか。
ただエリーの領主という設定上、大きな社交の場は領地の特産品や産業をアピールする絶好の機会です。また政治上、ルイスとの仲睦まじさを強調する必要もあります。
そこで『マダム・サラ』という一流デザイナーを登場させ、伯母様もファッションリーダーとし、二人を味方に(お任せという名の丸投げもあり)、ドレスを調製する設定にしています。
デザインはそのときの状況に合わせ、必要なアピールを基にし、色やモチーフに意味を持たせ、かつ美しさも追求しています。
合わせる宝飾や勲章のサッシュの影響も考慮しています。
アピールの必要がない日常生活ではほぼ描写していません。
―――ファンの皆さんにメッセージがあればお願いします。
WEB版での読者様がいなければ、この作品『悪役令嬢エリザベスの幸せ』は生まれませんでした。
題名も『エリーに幸せになってほしい』という感想が多かったので、直感的に『エリーが幸せになっていくストーリーを描こう』と決めました。本当にありがとうございます。心からの感謝を捧げます。
―――作品が気になっている方へのメッセージも伺えたら嬉しいです。本作は「小説家になろう」での評価もすごく高いですよね……!せっかくなので、ぜひその点にも触れていただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。この物語では、厳しい王妃教育で半ば特殊能力を身につけている主人公エリザベスは、私達と同じように、悩み苦しみ、時には後退・立ち止まります。それでも一歩ずつ前へ進んでいこうとするところに共感しながら読み進めていただけたらと思います。
そして主人公を取り巻く、ルイスをはじめとした周囲の人々の群像劇もお楽しみいただけたら幸いです。
また「小説家になろう」様では、400万PVを越え多くの方に読まれ、2500人近い方々からの評価も10点中平均9.18を頂戴し、楽しんでいただいている作品です。ぜひ一度お手に取り、お試しに読んでいただければありがたいです。
受賞作品についてのコメント、ありがとうございました! 続いては小説の書き方についてのインタビューです♪
―――小説はどんなツールで書かれていますか?
主にスマホと、大きなポストイットなどにメモ書きというアナログ手法です。場面やアイディアが思い浮かんだら、すぐに書けるという利便性はあります。
―――執筆ペースを教えてください。
平日は5,000字、休日は1万字〜です。
ただ、日によってはまったく本文が書けないときもあるので、そういうときは設定やずっと先でも描きたい場面、作品とはまったく関係ないエッセイ的なものでも、“何らかの文章”は書くように心がけています。
―――もし執筆の工程で苦手なことがございましたら、教えて下さい
『題名』です。作家の方々は皆様すごいと思っています。あの題名の裏にはどれだけの時間と推敲があったか考えると、自分も見習わねば、と思います。
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―――プロットは書きますか?
―――先生にとって、読者からの感想とはどのようなものですか?
執筆の原動力そのものですね。どんな言葉でもいただければ本当に嬉しいです。
特に本作は、感想欄の「続きを読みたい」という言葉をきっかけにスタートしたものですから、本当に感謝しています。
とても大切な宝物です。
――――キャラクターを作るときに大切にされていること
私にとっては物語のなかで生きている人物なので、登場するまでの背景も考えています。ただ、全部まとめて出してしまうと大変な情報量になってしまうので、徐々に出すようにしています。
―――タイトルをつけるときに、意識していることがあれば教えてください。
下記の3つが、私にとっては大きな課題です。
① 読んだときのわかりやすさ。
② 興味を引き、印象に残ること。
③ 内容を端的に伝えること。
―――作家志望の方々にアドバイスがあればいただけますと嬉しいです。
まず前提として、私は『創作論』などが苦手です。もちろん読んでいますが、合うと思った点を参考にしたり取り入れたりするくらいです。
そのスタンスで読んでいただけたらと思うのですが、内容を伴ったうえで、題名と導入部(ネット小説なら紹介のあらすじも含む)を磨くことだと思います。これで読者様の心を掴み、内容をわかりやすく伝え、読後感を大切にする。私にとっても永遠の課題です。
―――最後に、ネット小説大賞に応募したい方に向けてもぜひアドバイスをお願いします!
この賞には多種多様のレーベル様が協賛し、応募者に求めていることも異なります。ある意味で、レーベル様は発注者です。
この発注には3つの傾向があると思います。
1つはコンセプトが非常にはっきりとしたレーベル様です(簡単なプロットを提示しているレベルです)。
2つ目はキーワードを設定している点です。内容の構成要素の参考になります。
3つ目はまったく自由に書いていいというレーベル様です。
以上を念頭に、ご自分の作風とスタイルを考え執筆されてみる。これくらいでしょうか。たぶんお役には立ちませんので、お詫び申し上げます。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
―――とても参考になるご意見だと思います! 香練先生、素敵なインタビューをありがとうございました!
受賞作『悪役令嬢エリザベスの幸せ』を、ぜひチェックしてみてください!