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【ネット小説大賞トレジャーハンター】第三回『デウス・エクス・マギア ~大いなる幼女とデスメタる山田~』

先日公開された『第9回ネット小説大賞』一次選考通過タイトルの中から、運営スタッフがぜひ読んで欲しい作品をピックアップして紹介いたします。
気になる作品があればチェックしてみてください!

 

今回のピックアップ作品
デウス・エクス・マギア
~大いなる幼女とデスメタる山田~
(著:猫文字隼人

作品詳細

ジャンル

ヒューマンドラマ

【あらすじ】

先代の魔王である父・ヘルデウスが息を引き取ったことによって、666代目魔王に就任したヴェルベット・チャーチ。
現在の魔界において最強どころか、歴代の魔王と比較しても比類なき莫大な魔力を持っている彼女の悩みは自分の容姿が大凡、魔王らしからぬものであるということだった。

桃色がかった金髪はふわふわ柔らかく大きな瞳を彩る睫毛も長い。
きめ細やかな素肌に覆われた体の部位一つをとっても完璧な妖艶な美女――であればよかったのだが、生憎ベルベットは子供と表現するほかない幼い容貌であった。

力に見合っていない自らの容姿を嫌って表舞台にこれまで立つことのなかった彼女は父の遺言に従い、魔王就任の場に一度姿を見せたものの、あがり症故に民たちの反応も確かめず、己自身、民を落胆させるに違いないと思い込んでいたことも手伝って、逃げ出したのだが彼らはヴェルベットのその姿に魅了されていた。
後からその反応を知るも結局彼女の中の理想像とは大きくかけ離れてしまっている。
そして短い時間ながらも時に干渉できる力を持つ魔国宝を使い儀式での一幕をなかったことにしたヴェルベットは魔王下克上チャレンジなる勝負も一蹴して挑戦者からも外見や声に関する記憶を奪い去っていった。

しかし有力な魔王候補の一人として目されていたルキフグスに勝利したことにより、彼女の噂が再燃。
いかにも強そうなイメージ像が描かれ、またそれが好評だったことがヴェルベットの気を滅入らせた。

どうにか声だけでも違ったらと思った彼女は唐突に自分の代役を立てることを思いつく。
『魔界の民全てが幸せに暮らせるようにしたい』との父の思いを継ぐヴェルベットは偉大な魔王になるために一部の隙すらも許せず、魔界の民ではない存在を召喚するのを決心。

かくして魔界図書館で借りてきた本に従って彼女が召喚したのがデスメタルバンドでギターボーカルをつとめていた山田だった。

ゴムマスクを被っていたのも魔界貴族という設定を提案したのも彼ではなかったが、それらのことに嫌気が差したメンバーたちが続々と脱退した結果、解散の憂き目に遭う。
それでも今はライブハウスのオーナーである先輩に助けられたことをきっかけにデスメタルの世界に入った山田は大人になるということをずっと拒み続けようともしていた。

単純に魔王にふさわしい見た目と声を持つという理由で魔界に喚ばれた山田とヴェルベットのこの出会いが魔界の命運を変えていく。

 

異色のタッグが魔界の危機に対抗すべく立ち上がる、熱いドラマ!

突然の話ですが魔界と聞いて、あなたはどういった想像をするでしょうか?

瘴気に満ちた、空気の淀んだ世界。そしてそこには言葉も通じない魔物たちが入り込んだ人間共を殺さんと闊歩している――。
そんな極端ではないにしても、享楽的で自分本位であるという風な印象を持つ人が多いのではないでしょうかと個人的には思います。
あるいは勇者の攻勢に四苦八苦している従来のイメージとは真逆の弱者としての魔王とその部下たちを思い描く人も多いのかもしれませんね。

本作の主人公の一人であるヴェルベットはどちらかといえば間違いなく、後者に近い存在です。
勿論魔力自体は歴代で最強レベル。それにそんな彼女を脅す勇者も存在しません。
ただその実力に反比例するかのようなぽんこつっぷりはどうも憎めないどころか、彼女の外見と同様に、とても可愛らしいものです。

けれども本人にとっては、魔界の民基準でも魔王らしさのない自分の外見こそが大きなコンプレックス。
それ故に魔王の代理人として、それっぽくも見える山田を自ら召喚したわけです。
またその理由が、魔界の民をがっかりさせたくないというものなのも実際は需要(?)とちぐはぐなところも含め、可愛らしいなと感じるだけのギャップを生み出しています。

そういう周りの期待を裏切りたくない思考自体が実に人間臭いものですよね?
そのことだけで魔王という重苦しい肩書きと心も体も幼女そのものであるという、二重の意味で共感し難いヴェルベットを身近に感じられるのではないのでしょうか。

山田が魔界に召喚されてきてヴェルベットと共に魔王城ネコブルクへ向かう途中、二人は城下町に辿り着きます。
道行く悪魔は人間とそれほど大きな違いなどもなく、住居も一風変わっているものの近いイメージのものは想像ができるくらい。

そして市場に行けば、屋台で一悶着起こっています。
喧嘩をふっかけている悪魔は荒くれ者の屋台の店主。倒れているのは先祖が当時の魔王を毒殺したとまことしやかに囁かれている一族の末裔である呪いの民・マゴットの子供。
つい、ふらついてしまったという、その子供が襲われているのは紛れもなく、人種差別の問題が彼ら悪魔たちの心の根底に根付いているからです。

誰も止めたりしない、それは苦々しく思いつつも問題の根深さを理解しているヴェルベットもまた同じ。
実感できない山田だからこそ自分の信念に基づいて足を踏み出せたのかもしれません。
けれども彼の一歩は確実にその場にいたヴェルベットを含む悪魔達の心を突き動かせるものでした。

人間も悪魔も良いところも悪いところも、心の在り方は何も変わらないものなのです。
そんな山田とヴェルベットの、いわば人間性とでも呼ぶべき想いはやがて彼らが直面する魔界の危機においても、熱いドラマを生み出していきます。

タイトルを出落ちだとはいわせないその面白さを堪能してください。

こんな人におススメ!

・幼女と青年の組み合わせが大好きな人

・コメディーも真面目路線も全力で楽しみたい人

・沢山の元気を貰える作品を読みたい人

 

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