女神「異世界転生何になりたいですか」 俺「勇者の肋骨で」

書誌情報

満足して昇天するまで好きな世界に転生を続けられる世界。
ただし異世界転生もので人気の「チート持ちハーレム勇者」は、
人気すぎて待ち時間が5万年で……。
人気の転生先の抜け穴を探してはトンデモ転生を繰り返す、痛快異世界転生記!

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2021.1.21

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2021.1.21

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Story

舞台は、満足して昇天するまで好きな世界に転生を続けられる世界。ただし異世界転生もので人気の「チート持ちハーレム勇者」は、人気すぎて待ち時間が5万年……。それならと主人公が決めた転生先は、「ハーレムかつハッピーエンドなチート勇者の、肋骨」!? めんどくさがりな異世界転生担当の女神様と、人気の転生先の抜け穴を探してはトンデモ転生を繰り返す主人公の痛快異世界転生記! 第8回ネット小説大賞受賞作。

書籍化記念企画にて、WEBアンケートを実施。その人気上位エピソードのアフターストーリーを書き下ろし収録。さらに、本書でしか読めない「膝に矢を受けてしまった老兵の槍」も!

登場人物

主人公
主人公
人気の転生先の抜け道を探しては、トンデモ転生を繰り返している
女神様
女神様
満足するまで異世界に転生をさせてくれる、異世界転生担当の女神様
????
紅鮭師匠
紛うことなき紅鮭である
第一話 勇者の肋骨

「どこだここ、なにも見えねぇ」
『ようこそ、ここは……なんかよく分からないけど多分凄いところです』
「もう少し情報ください。真っ暗な空間に突如現れた美人の貴方は誰ですか」
『ありがとうございます。それでは貴方の境遇について説明します』
「情報ください」
『女神です』
「女神ですか」
『貴方は元にいた世界で不幸にも……なんか死んでしまいました』
「情報ください」
『いや、分からないんですよ。ほら』
「なんか突然空間に、俺の過去の様子を映しているディスプレイが現れた。家の中だけど、これって犯罪じゃ」
『女神に法は通じません』
「スタイル良いですね。全身撫で回していいですか」
『やめてください。訴えますよ』
「法が通じるじゃないですか」
『私が使うのは許されます』
「納得いかない」
『話を戻しましょう。これは貴方が死ぬ三年前の姿です』
「妙に若いと思った。昔すぎませんか」
『ではこちらが死んで三分後の貴方です』
「決定的な瞬間を見逃してしまった。もう一回お願いします」
『では死亡三秒前の貴方です、3、2、1、はい死んだ』
「すごい、本当になんか死んだ」
『なんですか面白人間なのですか貴方は。極めているんですか』
「流石に面白く死ぬ練習はしたことないです」
『しかし貴方が不慮の死を遂げたのは事実。ここはそんな哀れで惨めな人生の敗北者に対して、意味はないかもしれないけどもう一度足掻ける機会を与える場です』
「もう少し優しい女神様が良いです」
『バ○ァリンの半分は私でできています』
「優しい」
『もう半分が優しさです』
「人工的な薬剤のほうだった」
『それで平たく言えば、ここは異世界転生の前舞台です』
「ああ、この前アニメで見ましたいせ――」
『おっと、他の作品名を出すのは禁止です。その世界の神から怒られると面倒なので』
「世知辛い。それで異世界転生をさせてくれるのですか」
『はい。どのような世界、どのような存在に転生したいかを決めてください』
「わりとその辺自由なんですね。他の異世界転生ものじゃ選べないことも多いのに」
『神の格が違います。融通の利かない下っ端と一緒にしないでください』
「怒られますよ」
『神ごとに個性があるのです』
「お爺さん的な神様とかもいますよね。女神様だと目の保養になりますね」
『セクハラで訴えますよ』
「対応と個性への寛容さが厳しい」
『基本的に自由に選べますが、人気の役職は待ち時間があります』
「あるんですか」
『貴方一人を転生させているわけではありませんし、異世界にも限りがありますから』
「ネットで見ていると際限なく感じますが」
『では知り合いの神が創った、制作を途中で止めた世界に案内しましょうか』
「エタっちゃったかー」
 ※エターナる= 永遠に未完成となること
『王道ファンタジーのハーレムものの勇者だと、待ち時間は五万年くらいですね』
「どれだけ欲望にまみれているんですかね、転生待ちの方々」
『同じ世界で、田舎の村で一生村の名前を連呼する村人だと五百年ですね』
「わりと人気だった。重労働も嫌いなんですかね」
『良い世界は基本人気です。過酷な世界ですと待ち時間は短いですよ』
「例えばどんなものがありますか?」
『勇者にはなれますが、一生後ろ指を差されて笑われて終わる世界ですと、五分でなれます』
「それは勇者じゃないと思います。だけど待ち時間あるんですね」
『五人ほど妥協していますので』
「一人一分ですか。妥協の仕方間違えてませんかね」
『魔物に転生するほうも人気はあります。最初から魔王になるのもそうですが、最終的に魔王クラスになれる場合はやはり待ち時間が長いですね』
「打ち滅ぼされる魔王もそうですか」
『はい。勇者と激闘の末に死ぬ未来の魔王でも、やはり千年単位で待ち時間があります』
「魔王で待ち時間が短い世界ですとどれくらいですか?」
『魔王にはなれますが、一生後ろ指を差されて笑われて終わる世界ですと、八分でなれます』
「さっき聞いた気がする。勇者よりも人気だ」
『そろそろ貴方にも魅力的に感じる異世界転生先が見えてきたことでしょう』
「本気で言っているなら、貴方は邪神かなにかだと思いますが」
『最近では捻りを加えることで、上手いこと良い世界に食い込む者も多いですね』
「例えばどのような感じでしょうか」
『スキルを一切持たずに常人として活躍したり、むしろただの農家や商人、料理人となったりですね』
「なるほど。人が思いつかない転生先を選ぶわけですね」
『無生物になったりする方もいます』
「無生物、勇者の武器とかですかね」
『はいそうです。ですが最近はちょこちょこ需要が高まっていますので、待ち時間が発生しやすいです』
「新たな開拓者にならないとダメなんですね」
『それに無生物ですので、寿命が長いせいで一人あたりの持ち時間が長めです』
「後ろ指差される世界の者たちの末路が見えてしまった」
『さて、どうしましょうか。貴方はわりと女好きのクズで冒険者気質ですから、希望の職は待ち時間が長くなると思いますが』
「否定はしませんがもう少し優しくお願いします」
『女性に優しいクズで冒険者気質』
「惜しい」
『とりあえず適当に選んでください。私は忙しいですし時間が勿体ないです』
「対応が雑になってきた。この世界って時間の感覚あるんですか」
『そろそろサザ○さんが始まります』
「あー同じ世界っぽい。ついでに日曜日だ」
『見逃すことになったら貴方をサザ○さんのお隣さんにします』
「いささかそれは困ります」
『では早く、満足いかない人生だったらどうせまたここに帰ってこられますので』
「忙しい理由ってそのシステムが原因なのでは」
『あー』
「無自覚だった。では決めました」
『よく今までの会話で選べましたね』
「貴方にそれを言われるとは思わなかった」
『では仰ってださい。話を聞きながら端末を操作して、待ち時間を割り出します』
「設定がしっかりとしている良い世界、ハーレムかつハッピーエンドなチート勇者」
『随分と待ち時間が発生しますよ? 万年超えちゃいましたよ』
「の肋骨でお願いします」
『ゼロになった』
「よし」
『なんですか肋骨って』
「いや、右手だといるかなって」
『いやいませんよ――あ、いました』
「それに勇者の右手になると下の世話とかもさせられそうですし、そういう漫画見たことありますから」
『それパカって顔が割れるやつじゃないですよね』
「肋骨なら基本美女に撫でられるだけでしょうから」
『そうでしょうか、変態すぎて分かりませんが』
「イケメン勇者の肋骨ですよ、触りたくありませんか」
『何回か触ってみたいかもしれませんね』
「ハーレムだからきっと色々な女性に撫でられるかなと」
『欲望が浅いんですね』
「全身性感帯ならイケるかなと」
『プロフェッショナルでしたか』
「そんなわけでお願いします」
『まあ分かりました。それでは行ってらっしゃいませ』

   ◇

「ただいま戻りました。なんだか急にリビングっぽくなってますね」
『やっぱり戻ってきちゃいましたか』
「いや、わりと満喫はできたんですけどね」
『なんで戻ってきたんですか』
「ハッピーエンドにはなれなくて……」
『なれると思ったんですか。ハッピーエンドになれるのは勇者であってその肋骨の貴方ではありませんよ』
「あ、サザ○さんやってるんですね、一緒に見ていいですか」
『どうぞ、ブルーレ○ですから綺麗ですよ』
「まさかカ○オの坊主頭をブルーレ○で見る日がくるとは」
『産毛までしっかり映っていますよ』
「逆にパチモノ感増してませんかね」
 ※凄いよね、ブルーレ○
『それで、どうでしたか?』
「え、やっぱり久々に見るとなかなか味があるなぁと」
『サザ○さんではありません、貴方の異世界転生の話です』
「結構途中までは良かったんです。多くのヒロイン相手に絶頂を迎えられたので」
『女神に話す内容じゃありませんね』
「ある時、推しのヒロインについ愛を囁いてしまいまして」
『肋骨がですか』
「惜しくもドン引きされました」
『推しだけにですか』
「上手くないですね」
『今貴方の肋骨を折りますよ』
「なんてユーモアのある女神様だ」
『それで良いです』
「肋骨がとても素敵だ」
『それは良くないです』
「必死に素性を隠していたのですがついに勇者に存在がばれてしまい、ついに『十一番目の右肋骨だ!』と名乗ってしまいました」
『名乗られたほうは困惑したでしょうね』
「そして流石は勇者、躊躇うことなく十一番目の右肋骨を摘出しました」
『勇者じゃなくても大半の人は喋しゃべる肋骨を摘出しますよ』
「ただそこまでは良かったのです」
『摘出されてまだ良かったんですか』
「実は十番目の右肋骨だったので」
『摘出損じゃないですか、十一番目の右肋骨さんに謝ってくださいよ』
「やだなぁ、十一番目の右肋骨に意思なんてあるわけないじゃないですか気持ち悪い」
『お、そうですね十番目の右肋骨』
「運よく摘出を逃れ再び肋骨撫でられライフに戻れたのは良かったのですが」
『なかなか聞きなれない単語ですね。また声を出してしまいましたか』
「いえ、取り出された十一番目の右肋骨が新たな人類として生まれ変わりまして。人類と新人類との戦争が起きてしまったのです」
『アダムとイヴっちゃいましたか、チート勇者半端ないですね』
「イヴが多すぎて大変でしたけどね」
 ※聖書のお話。最初に創られた人間、アダムの肋骨から妻のイヴが創られました。リンゴ、美味しいよね
『ハーレム勇者でしたからね。ですがチート勇者なら解決できたのでは』
「それが勇者から生まれた十一番目の右肋骨勇者もチート勇者でして。壮絶な戦いになったんですよ」
『そんな名前の勇者になったんですか。名前くらい名乗ればよかったでしょうに』
「結局決まり手は肋骨一本の差で十一番目の右肋骨勇者が勝ってしまいました」
『骨の数で性能差が出ちゃいましたか、貴方が肋骨一本分くらい助力すれば良かったのに』
「肋骨ごときになにかできるとでも」
『名乗りを上げた個体や、摘出後勇者になって当代の勇者を倒している個体もあるようですが』
「そんなわけで残念ながら勇者は死んでしまいました」
『大抵貴方のせいですね。それで戻ってきたと』
「いえ、もう少し続きがありまして」
『まだあるのですか。続けなさい』
「十一番目の右肋骨勇者は思ったんです。『チート勇者の他の肋骨も勇者にできるんじゃね?』と」
『思っちゃいましたか』
「そして残った二十三本の肋骨全てを摘出したんです」
『そして勇者が二十四人に』
「いえ、俺は勇者の肋骨として転生していたので、初代勇者の肋骨として残り続けました」
『無駄に律儀ですね』
「そして二十三人の勇者による世界の奪い合いが始まりました」
『壮大なスケールになっちゃいましたね』
「ちなみに最後に勝ち残ったのは三番目の左肋骨勇者でした」
『全員その名前なんですね』
「大変でしたよ、五番目の右肋骨勇者と七番目の左肋骨勇者の星を割る戦いとか、世界が終わりかけましたからね」
『名前が全てを台無しにしていますね』
「あと九番目の右肋骨勇者と二番目の左肋骨勇者が同性愛に目覚めたり」
『そこは後で詳しい報告書を作ってもらいましょう』
「頭脳系の十番目の左肋骨勇者に至っては自分の肋骨から新たな勇者を創造したり」
『それ際限なくなる系の展開ですね』
「ちなみに十番目の右肋骨からはなにも生まれなかったです」
『わりと貴方という存在が世界に干渉しているようでなによりです』
「結局肋骨の俺はただ指を咥えて見ているだけでした」
『指ありませんよね、残った肋骨ですよね』
「そうでした、咥えていたのは獣耳系ヒロインでした」
『愛人の骨を咥えるとかなかなかのサイコパスですね』
「快感でしたよ」
『全身性感帯でしたね』
「しまいには勝ち残った三番目の左肋骨勇者がなんか凄い肋骨の奇跡を使いまして」
『肋骨の奇跡……完全一致検索だと先ず出ないでしょうね』
「死した勇者たちは皆、砕けた肋骨へと戻りました」
『骨折り損のくたびれ儲けオチは許しませんよ』
「いや、そのままヒロインたちに埋葬されて終わりました」
『そして貴方も一緒にですか』
「いえ、自分は獣耳系ヒロインの口寂しい時用に残されていました」
『そのヒロイン異世界転生者じゃないですかね、正気には思えないのですが』
「充実した日々を満喫できました」
『そうですか、聞きたくありません』
「ですがある日うっかり菜園系ヒロインに見つかってしまい、肥料として砕かれて死んでしまったのです」
『勇者の骨とは思わないでしょうからね』
「そういったわけで未練が残って帰ってきました」
『思った以上に楽しんでいたように思われますけど』
「あ、これお土産の十一番目の右肋骨です。わりと原形が残っていたので貰ってきました」
『捨ててください、いやこの場所に捨てないでください』
「それでどうしたものかなと」
『まあ貴方が満足しなかったのであればもう一度転生させましょう、希望の世界と職業を選んでください』
「ネタ切れでして」
『勇者の肋骨として生きていたんですから、少しは自分の存在を疑問に思って次の世界のことを考えているものかと』
「大丈夫です、こんなこともあろうかとこれを用意しました」
『目安箱ですね、いつの間に』
「サザ○さん見ながらゴ○ィバの箱を使いました」
『あ、私のゴ○ィバの箱がない。小物入れにしようと思ったのに』
「これで俺の異世界転生の感想を求めて、次回の転生先を決めようかと」
『他力本願すぎませんか、そもそもこの空間には私しかいないですよ』
「異世界転生待ちの人にお願いするんですよ、そうそこの貴方」
『カ○オは別に異世界転生を望んでいないと思いますよ』


===

書籍ではさらに、「ヤドカリ」や「魔王城の扉(右)」「ビーバーと熾烈な生存競争を続ける世界樹の末裔」などに主人公が転生しています! 書籍版でしか読めない、主人公が女神様のもとに戻ったあとの世界を描いた、後日談も多数収録。ぜひお楽しみください!

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女神「異世界転生何になりたいですか」 俺「勇者の肋骨で」

好評発売中!

定価:本体1260円+税
ISBN:978-4-299-01262-3

著者プロフィール

安泰@antai_bunan
作家と作品は別物、そんな話を聞いたことがあります。確かにコメディーを書いているからといって、お笑い芸人のような生活をしているわけではないですし、ファンタジーを書いているからといって異世界に住んでいるわけではありません。ですがやはり作品には作家の『らしさ』が滲んでくるのではないかと思うのです。では勇者の肋骨には作者のどのような『らしさ』が滲んでいるのだろうかと考えました。……それはやはり(文字数制限)