2000年代から今にかけての『WEB小説の変化』

ネトコン
本日は豪華ゲストの皆様にお集まりいただいて、本当にありがとうございます!
いろいろお話を聞きたい方ばかりですが、2024年に就任されたばかりの『小説家になろう』のお二人が気になる方も多いと思います。
青山社長や塩川さん、今回は『WEB小説の過去と未来』がテーマですが、『小説家になろう』というプラットフォームの過去と未来を振り返ってみていかがでしょうか?

青山社長
たくさんの皆様に集まっていただいたおかげで、ここまで大きくなることができたプラットフォームだと思ってます。プロの作家が出るなんて思ってない状態で始まったサイトから、職業としての小説家が日常的に生まれるようになりました。
この先でいえば、まだ皆様からの期待にお応えできてない部分もあると思いますので、そのあたりを広げていきたいです。もっとスケールの大きいお話をすると、日本の国策として広げようとしているクールジャパン戦略を担うIPの源泉になると思っているので、それを積極的に支えていって「物語の持つ力」を世の中に出していけるようになりたいですね。

ネトコン
青山社長が就任されたという発表があった20周年記念イベントのときは、本当に話題になりましたね。『小説家になろう』がどのように変わっていくのか、期待と不安が広がりました。
「そもそも誰なんだ」という疑問も多くSNSで見られましたが、その点でいうと、お二人はもともとヒナプロジェクトのなかにいた方ですよね。

青山社長
僕が 2014 年、塩川は 2019 年に入社しています。僕はユーザーサポートの担当をした後に法務や管理部門に行って、その後にいろんなことがあってこうなりましたね。

塩川さん
僕はサービス運用を管理する部署の部署長をやって、同じくいろんなことがあって今に至っています。

ネトコン
お二人ともユーザー様を支えてきた部署にいたこともあって、『小説家になろう』の作品にもお詳しいですよね。ネット小説大賞受賞作にも、ふとしたタイミングで嬉しい感想を貰ったこともあって投稿作品への愛情を感じています。
ヒナプロジェクト様の良い文化を引き継いでいただけそうな期待もありますね。

塩川さん
新しく変わっていく部分もありますが、 20 年間ずっと続けることができたプラットフォームなので、創業メンバーが作ったもの、これまで支えていただいた作家の皆様や投稿されてきた作品は本当に大事なものだと思っています。
ビジネス以外のところでも判断しつつ、これまで重んじてきた文化が企業としてのアイデンティティにもなっているので、守るものはしっかり守っていきつつ、課題になっていることは直して、さらに夢を見れるようなサービスにしていきたいですね。

ネトコン
冒頭から素敵なコメントをありがとうございます。それでは次に、双葉社の宮澤さんからコメントをいただきたいです。
双葉社の宮澤さんは『恋空』『君の膵臓を食べたい』など、たくさんの小説投稿サイトプラットフォームからヒット作を出してきたWEB小説業界の発展における立役者のおひとりだと思います。こうしたプラットフォームの変化についてはいかがでしょうか?

宮澤さん
2000 年の初頭から様々な小説投稿サイトを見てきて、当初は本当に「コミケだな」と思っていたんです。作家と読者ユーザーによって作り上げられた空間で、だからこそ支持されていた面がありました。
だけどヒット作が出て、投稿サイト内にビジネス色が目に見えてきてしまったことでユーザーが離れてっちゃったサイトも見てきましたね。
作家と読者の化学反応によって作品が生まれ続けていくというのが、小説投稿サイトのコアになる部分だと思います。そういう意味ではユーザーが作り上げている場だという意識を、ユーザーに継続して持ってもらえる環境づくりが大切だと思いますね。

ネトコン
今でこそ商業化が当たり前になってきたところがありますが、当時は著者と読者の空間だったのですね。
この点は著者様からのご意見もいただけたらと思いますが、長年この業界にいらっしゃる『異世界居酒屋「のぶ」』の著者・蝉川先生としてはいかがでしょうか?

蝉川先生
宮澤さんがおっしゃったように、十数年前は今よりもはるかに作者とファンの距離が近かったですね。書籍化が決まったら「お前の本だから買ってやるか」みたいな空気感がありました。

宮澤さん
携帯小説の元祖でいえば『翼の折れた天使たち』のyoshiさんだったと思いますが、熱狂的なファンが何百万人もネットで読んで感動していて、書籍化されることになったらファングッズのような感じで購入していただいていた雰囲気でしたね。
いわゆるアイドルのようなイメージで買ってたと思います。

蝉川先生
それでいうと最近は、 1万字ほど書いたら書籍化が決まっていくので「書籍化するのって今では当たり前になっちゃったよね」という感じになってしまいましたね。
以前なら作者と読者の濃い関係性が生まれるコミュニケーションの空間だったのに、商業に至る階段になっちゃったというか。
でも、僕は『小説家になろう』っていうサイトの名前がすごく好きなんです。『小説家になろう』は、プロの小説家になろうということではなくて「誰でも小説家になれますよ」という意味だったと思うんです。
だからこそ私は、商業化やランキングの席を取りあう椅子取りゲームの場になってしまっていることが少し寂しいですね。

宮澤さん
蝉川先生の話を聞いていて思い出したんですけど、実は「君の膵臓を食べたい」は弊社が一緒にお仕事していた作家さんがたまたま読んでいて。面白いよと推薦いただいたので読んでみたら、本当に素晴らしい作品だったからお声がけしたという背景でした。
我々もあの時に推薦がなかったら、絶対に知ることもできなかった作品でした。だから、やっぱりランキングといった話題になっている作品以外にも、光が当たる場所のようなものがあるといいなと思います。

ネトコン
ランキング以外の作品にも日が当たる場所というのは、とても大切な着眼点だと思います。2024年開催の第12回ネット小説大賞でグランプリを獲得されたしゅーまつ先生から、ランキングのあたりで気になる話題はありますか?

しゅーまつ先生
最近『小説家になろう』ではランキングで女性ものが流行していて、男性向けを書いている自分としては向いてないかも……と感じることはありますね。

ネトコン
ランキングは流行の影響も大きく受けるので、その視点から考えても、ランキング以外でもユーザー様の目に留まる場所があると嬉しいですね。
せっかくの機会なので青山社長、この点についてはいかがでしょうか?

青山社長
ランキングで作品を探されている読者ユーザー様も多いので、皆さんの素晴らしい作品が読者に届かないというのはもったいないことで、新たな課題が生まれてると思います。
まだ具体的には「こういう機能を入れます」というのは言えないんですけれども、ランキング以外でも読者に対して読みたい作品をどんどん繋げていくことがプラットフォームとして望ましいことだと思っておりますので、日々頑張っています。

ネトコン
ありがとうございます。今後の『小説家になろう』様への期待感が募るお話ですね。
こういった『小説家になろう』の運営方針で言うと、お二人になってから少しずつ変わってきているなって印象があります。こちらは、お二人が率先して舵を切っているんですか?

青山社長
時代の変化については、創業者たちも見ていたところではありましたが、せっかくこの立場になっているので踏ん切りをつけてやっていこうみたいなところはあるかもしれないですね。
収益化について

しゅーまつ先生
最近は収益化できる小説投稿サイトが増えてきているので、やっぱり『小説家になろう』様でもどうなるのか気になります。

ネトコン
今は小説投稿サイト様も増えてきていて、少しずつそういった流れが出てきていますね。

しゅーまつ先生
私はもともと自己満足で書いていたんですけど、感想をくれる読者の方が現れて、そこで初めて読んでいただいている読者の方がいるんだって気づいたんですね。
やっぱり感想をいただけるのが一番嬉しいことではあるんですけど、お金が絡んでくるとまた新しいモチベーションになります。だから、ランキングのトップにいるような方はお金の出る方に流れていくんじゃなかろうかと思うんです。

蝉川先生
昔は「ネットでお金を稼いでんじゃねーよ」みたいな風潮が強かったんですよ。それが近年になって変わってきていて、みんなVtuber に気兼ねなくスパチャするし、昔だったらあんまり考えられないようなことが起きてきていると感じます。

ネトコン
2010年代から電子マネーが普及していって、スマホ1つで支払いができることに抵抗がなくなってきたことも背景にありそうですね。
『小説家になろう』様における著者様向け収益化サービスというのは、20周年記念イベントでも触れられたトピックになりますので、ぜひ青山社長からコメントをいただけたら嬉しいです。

青山社長
書籍化しないと職業作家レベルの収入源になりにくいというのが、今の日本のWEB 小説の状況になっていて、それだとWEB小説から作家を目指したいと思ってくれる方が少なくなっていくかもしれません。
業界の持続性を上げるという意味で、我々もプラットフォームとして寄与していきたいです。
あとは、ポイントやランキング以外のところで、ユーザーさんの指標やモチベーションになるものを収益化で作っていきたいと思っています。
生活を支えるというところまでいかなくても、「ちょっといい焼肉が食べられたぞ」とか、何かを成し遂げたぞってユーザーさんが思えるようにする。そうして新しい作品が出ていくようにするのが、我々に期待される役割だと思っていますので、力を尽くしていきたいです。

ネトコン
ありがとうございます。書いた小説がお金になるって、著者様にとっては大きな夢の第1歩になると思うので、こちらのサービスもワクワクしながら実現を待ちたいと思います。
小説家になろうの楽しみ方

ネトコン
少し商業的なお話が続いたので、『小説家になろう』の楽しみ方について聞いてみたいと思います。
例えばレビューを投稿した数が多いユーザー順を見ることができて、これが意外と有名な著者様が多くて驚きました。自分の作品を書くばかりでなく、他の方の作品を応援している方も多いんだなと。
ほかにも、好きな作品が更新されたらすぐに誤字脱字報告をしてくれる校正特化型の読者様がいたり……皆様なろうで、それぞれの楽しみ方をされているのだと思います。青山社長は、どんな楽しみ方をされていますか?

青山社長
例えば消防士に興味があるときに、『消防士 異世界』でGoogle検索をかけると、結構な確率で『小説家になろう』の作品が出てくるんですよね。そういった小説を読んでみると、その職業に深く関わってきた方が書いてることが多いので、その職業のことがよく知れるみたいなことはあったりしますね。

ネトコン
たしかに過去の受賞作でも、その職業の方が書いた作品というのが複数ありますね。

青山社長
逆に、職業と異世界っていうキーワードを組み合わせて、小説家になろうの作品が検索上位に出ないものを探すのはそれはそれで面白いですよね。出てこないなら、それは書くチャンスかもしれないです。

ネトコン
ありがとうございます! 豪華対談の記念すべき第1回は『小説家になろう』様の今後に期待できそうなお話も多く伺うことができました。次回は『小説家になろうで流行はどのようにして生まれるのか』について同じメンバーで対談していきますのでお楽しみに!

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