＊「君に恋をするなんて、ありえないはずだった そして、卒業」のあとのお話です

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『飯島くんの変な趣味』



　交差点の向こう、ドラッグストアの店先。
　ひとり、店に入ることもなく佇んでいる人がいた。ポケットからスマホを取り出したり、往来を眺めたり。その視線は所在なく揺れていて。
　信号を渡っている途中で、その人の目がこちらに向けられた。とたんに表情が変わる。

　 　ああ、ごめん、すぐに行くよ。

　＊＊＊

　 「飯島ってさ、待ち合わせのとき、あたしよりちょっとだけ遅くくるよね。なんで？」
　並んで歩いていると、彼女にふと聞かれた。久々の東京の街に吹く乾いた風は、彼女を大人っぽく見せていた。
「そう……かな」
　ぼそっと答えると、彼女は「うーん」と首をひねった。
「そうだね、いつもってわけじゃないんだけど、なんか、そういうこと多い気がする。今日もそうだったし。『あれ、あたしちょっと遅刻したかな』って思って急いでマツキヨの前に行ったのにいなくて。でもすぐ来たから、どっか行ってた？　みたいな」
　まあ、そんなに待ってないからいいけど、と彼女が付け加えた。別に、怒ってるとか何かを疑ってるとかではなさそうだ。ただ純粋に、気づいてしまったから聞いてみただけなんだろう。
　たまたまだよ、と笑ってごまかす。それならいいけど、とあっさり引き下がってくれたけど、本当はかなりドキッとした。

　――とうとうバレちゃったか。

　本当は、君の言う通りわざとだったりして。
　待ち合わせするときは、少し離れたところから君が来るのを見てたりするんだ。
　君はいつも、一人でいるときは心細くて不安そう。でも自分を発見すると、別人みたいに元気になって。その瞬間がたまらなく嬉しくて、たまに今日みたいにわざとちょっとだけ遅くなる。

　……って、気持ち悪いって思われそうだし、「そんなことしてないで早く来てよ」って言われそうだから、絶対内緒だけど。
　君も自分と同じぐらい一人が寂しくて、やっぱり同じぐらい会えたら嬉しいのかなって、勝手にそんな気がしてる。
　いつかは、寂しい想いをしなくて済むようになりたいけど……
「まずはこれから、浜焼き食べに行くよ！　はまぐりが美味しいお店見つけたんだ。そのあとは、サイエンスカフェでお茶しよ。チェレンコフゼリー食べてみようよ。あっ、今度お祖父ちゃんちに差し入れ持っていこうと思うんだ。何がいいか一緒に選んでもらっていい？　あとさ、この前言ってたソーラーパネルのことなんだけど……」
　彼女が堰を切ったように話しはじめる。それだけでもう、「かわいいな」って抱きしめたくなる。
　たまに会えるからこその幸せを、今はひとつひとつ、思い出にしていくよ。


（おわり）